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薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた〜過去最低合格率の余波

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 「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第三話。2014年第99回薬剤師国家試験の概要と、その余波。彼女の誕生日など。

 

 

2014年3月31日

この記事の続き↓↓第二話

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 厚生労働省の合格発表サイトを見て、番号がなかったことを確認。彼女の不合格が正式に決まった。内定先の病院や親御さんに淡々と報告する彼女の姿は、見ていて辛いものがあった。しかし、そこに涙はもうなかった。


 ――彼女と澪ちゃんがヨーロッパから関西国際空港へ帰ってくる日に、二人を迎えに行った。名古屋へ戻るその電車の中で、彼女はもう一回だけ泣いた。誕生日が近かった彼女のため、澪ちゃんがサプライズでビデオレターを準備してくれたのだ。6年を共にした友人や研究室の仲間、先生、学部内の縁のある人たち……画面の皆が口々に「おめでとう!」と明るく笑顔で言っていく。事前に澪ちゃんのサプライズ計画を聞いていたので、僕自身はもちろん、僕の親友にもメッセージをもらっていた。

 大阪難波から近鉄名古屋の特急電車には、幸い人が少なかった。それでも、公の場所という意識があるからだろう、涙を堪えるように、二人は静かに涙を流していた。言葉こそなかったものの、

「来年こそは必ず」

 という意志を抱いたに違いない。良い友人に恵まれ、彼氏として本当に誇らしかった。

 その数日後、二人は卒業式を終えた。

 

彼女との出会い

 決して否定しているわけではないが、医学部漏れ、獣医学部漏れ、公務員的な安定感覚で薬剤師を目指す人は少なくない。しかし、彼女は予備校で出会った頃から

「病棟で働く薬剤師になりたい」

 と言っていた。なぜ病棟にこだわるのかはこの時にはわからなかったが、確かな芯の強さがあったことは覚えている。


「物理の授業取ってますよね?」

「……」

「ノート貸してもらえませんか」

「……はあ」


 これが僕と彼女の最初の会話である。一種のナンパではあるが、予備校という環境で夢を目指して努力する人は、特に輝いて見えた。また、人が周囲に集まるのに自身は寡黙なところを見て、友人たちに頼られているのだろう……と感じていたので、実は気になっていたのだ(もちろん容姿も。。。)。

 話しても全く自己開示をしない彼女と仲良くなる苦労は、忘れられない。あの時、声をかけて良かった……と思う。

  

第99回薬剤師国家試験の概要

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引用:http://mr.ten-navi.com/topics/押さえておきたい業界のtopics。6年制移行後、初め/

 今回の第99回薬剤師国家試験の実態が浮かんできた。試験が年一回になった1988年以降では(それまでは年二回)、過去最低の合格率60.84%。ただ、空白の二年間は除く。

空白の二年間とは

2006年の学校教育法改正により、薬学部は四年制から六年制に移った。よって、2010年95回と2011年96回の二年間は新卒が出ていない。つまり、試験を受けたのは既卒のみで、受験者数そのものが激減している。これが、空白の二年間と呼ばれる期間である。


 前年の第98回が79.10%だったことを踏まえると、「なぜ、急に?」「落とす試験じゃなくて合格させる試験じゃないの?」と疑問を抱かざるを得なかった。

 つまり、二年間も薬剤師が世に出ていないのだから、現場は人手不足なのだ。文系大学生は東日本大震災や政治の影響をモロに受けて就職氷河期であっても、薬学生は超・超・超売り手市場。だからこそ、余裕で受かると思っていた。


 管轄している厚生労働省の狙いがわからなかったので調べてみると、現場とのねじれの構造が見えてきた。

 

 厚生労働省は、薬の専門家としてチーム医療の中で役立てるような薬剤師の育成を掲げている。これは六年生に移行して、実習を増やしたことからもわかる。加えて、かかりつけ薬局の増加(24時間対応)や、在宅対応も増やそうとしている。「薬を出すだけ」というイメージを変えたかったのかもしれないし、現場の薬剤師の平均的な能力が低かったからかもしれない。

 現場の負担を増すようなことを推奨しているのに、この合格率である。未来ばかり見て現在が見えていないと言わざるをえないから、現場から反発の声が上がるのも無理はないだろう。

 

 ただでさえ衆議院に薬剤師が少ないだとか、他国と違って医者の権力が圧倒的だとか、この国の薬剤師は根本的な問題を抱え続けている。それなのに……どこの世界もこういうことがある。関係のない人は

「大変だったねえ」

「タイミングが悪かったね」

「時代が悪い」

 など、気遣った言葉をかけてくれる。ただ、当事者である本人や親族からすると、何の救いにもならない。こればかりは、似たような経験をした人間にしかわからないと自信を持って言える。

 

過去最低の合格率の余波

 過去最低の合格率は、各所に打撃をもたらした。

 内定を出していた企業や病院は対応に迫られ、予備校は例年になく希望者が殺到。ネットの申し込みページがサーバーダウンを起こしたらしい。薬学部は、ただでさえ狭い環境・人間関係な上に、勉強漬けの日々を送る。よって、アナログ人間も多い傾向にある。なので、申込みがホームページからしか出来ず、ストレスで発狂しそうになった人もいることだろう……。

 

 予備校が始まる9月までは自分で勉強をしつつ、バイトをしながら過ごすことに決まった。バイト先は、研究室の教授の紹介でなんとかなるらしい。幸い、一年間を名古屋で過ごす体制はある程度整ったと言えるかもしれない。

 ちなみに、澪ちゃんも同じ予備校の同じコースになった。澪ちゃんは一度地元に帰省して、9月から名古屋で部屋を借りるという。

 

4月を前に

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 マンションのベランダから公園が見渡せるのだが、そこの桜が非常に美しい。咲き誇るという言葉があるように、堂々と咲き、堂々と散る。その流れをここ数年、僕は見てきた。

 でも、今年は違う。その変わらない美しさと、またこの景色を見ているという悔しさや虚しさ。美しいからこそ、自身の心境とはまるで違う桜を見て、感慨深くなってしまったのだろうか。

 

つづき

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