「薬剤師国家試験に落ちた彼女を、僕は隣で見ていた」第十話。履歴書公開、彼女が考える病棟薬剤師の魅力、面接の結果など。
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就活で抑えるべき点
面接は自己表現というより、私を雇うとあなたの企業で利益になりますよ、という商談である。それを、過去・現在・未来視点でプレゼンする。
- 過去……大学で学んだこと・ゼミで勉強したことをあなたの企業で活かせますよ
- 現在……あなたの企業に入るために今こんなことをしてますよ
- 未来……過去と現在を踏まえて、あなたの企業で私はこういうことが出来ると思いますよ
もちろん、企業も商談を通して学生を見定めたい。だから、以下の質問をすることになる。
- なぜ他の企業ではなく、ウチへ?(志望動機)
- あなたはウチで何が出来るの? 活躍できるの?(自己PR)
景気や企業事情によって学生と企業の力関係なども変わるが、基軸はこの二つ。
つまり、その企業が何をしているかを把握した上で、自分が貢献できる経験を提供しなければならない。それを伝えるために、履歴書を書く。履歴書の内容を見て、質問してもらい、自分を売り込むために。
履歴書の項目を公開
- 研究課題・ゼミで学んでいること
- 学生時代・学業以外で力を注いだこと
- 私の特徴・人柄
- 志望動機
彼女が取り組んできたことを踏まえ、紹介していく。
研究課題・ゼミで学んでいること
◯◯✕✕講座に所属しています。高齢者に対して、認知症と治療薬のセミナーを行いました。より理解してもらうため、見やすい資料を作り、話すスピードを落としてハキハキ話すことを心がけました。また、高齢者の認知症に関する知識に与える影響についても検討しました。研究を通して、相手によって話す言葉や内容を選ぶことが大切だと学びました。
五年生の春くらいだろうか。所属ゼミを選ぶ際の基準として、大まかに二つの選択肢があった。一つは実験、もう一つは臨床である。例えば実験ゼミの場合、動物実験・解剖などがメインとなる。その都度データを取るのだが、彼女はあまり好きではない。だから、臨床研究ができるゼミを選んだ。
臨床ゼミでやったことの一つに、認知症の啓蒙活動がある。公民館とのアポを先生に取ってもらい、一人で行う。具体的には、高齢者の前で認知症の初期症状や予防方法などの話をする。その後、話を聞く前と聞いた後で意識が改善されたかどうか、それをアンケート調査。
実際に人と触れるという点でも、病棟薬剤師の仕事につながる。
学生時代・学業以外で力を注いだこと
調剤薬局でアルバイトをしています。主に外来患者さんと介護老人保健施設住居者の調剤を行っています。各々で要望が異なるため、薬歴の確認を行い、間違えのないよう気を付けています。一包化する施設が多いため、薬を配達する日に間に合うよう、予定を立てて調剤を行っています。また、手の空いている時には薬剤師の先生をお手伝いし、より多くの処方箋に触れるようにしています。
私の特徴・人柄
中学生の頃から薬剤師になることが夢です。今年の国家試験で思った通りの結果が出ず、挫けそうになりました。しかし、周囲の励ましのおかげで前を向くことができました。この一年を有意義なものにするため、日々何をしなければいけないか考え、行動するように努めています。
趣味・特技など
友人と話すこと、または、ゆっくりとできるカフェで時間を過ごすことが好きです。オンとオフの切り替えができ、リフレッシュすることができるので、新たな気持ちで物事に取り組むことができます。
志望動機
患者さんの治療や薬に対する不安を取り除き、安心して治療に参加できるよう手助けのできる薬剤師を目指しています。貴院は、薬剤師としての知識や技能を学ぶことのできる教育プログラムがあり、それらを患者さんの治療に役立てることができると思いました。また、訪問した際に、今後興味を抱いた分野に関して、主体性を持って勉強できる環境であると感じました。
一つ目は充実した研修があるから。
三年間の研修があり、病棟薬剤師としてのキャリアをしっかりと歩める。これは去年、面接前に訪問して確認していた。また、救急科もある総合病院であるため、仕事の幅も広い。特に希望している科はないものの、患者さんの役に立てる仕事に就きたいと考える彼女の意図に合う。
二つ目は金銭面と福利厚生。
多額の奨学金を考慮すると、月20万円以下のところでは働けない。病棟薬剤師は、他の薬剤師に比べて給料が非常に安いと言われている(もちろん病院ごとに異なるが)。ただ、経験は薬局に移った時も重宝されるのがこの業界らしい。そして、この病院は、大幅な家賃補助もあった。
三つ目は福岡県であること。
両親が高齢なので、何かあった時のために近くにいたい。
面接の話
面接の話を聞くと、
「お久しぶりです」と人事に言われ、
「成績良かったのになんで落ちちゃったの? すごく悲しかった」
と薬剤部長に言われ……。。。
「なんでまたウチに来たの??」
など、意地悪な質問は一切なし。結論から言えば、去年に続いて今年も受けたことがプラスに働いたようだ。面接前から好印象を受けている場合、通過する可能性はやはり上がる。
印象に残った質問は、「予備校って、受からせるようにしてくれるんだよね?」と「最近感銘を受けたこと」。前者はともかく、後者は薬局のバイトを終える際に感謝されたことを話したという。人を通して良い感情が循環している点を考えれば、百点満点に近い回答だと言えるのではないだろうか。
僕が就活をしていたのは東日本大震災直後だった。就職氷河期と売り手市場・文系と理系・人間性の違いがあるにせよ、ここまで異なるのか……と学んだのであった。
彼女が考える病棟薬剤師の魅力
病院に勤める薬剤師の中には、調剤室ではなく、病棟のナースステーションに常駐する者がいる。それが病棟薬剤師だ。看護師などと一緒に、その病棟に入退院する患者さんの薬の管理を行う。
具体的には、
- 患者さんへ新しく処方された薬の指導
- 患者さんとコミュニケーションを取りつつ、副作用が出ていないかを確認
- 退院する患者さんに退院後の薬の指導
- 新たに入院してくる患者さんの持参薬を鑑別
などなど。
また、薬剤師として、他職種と関わりながら仕事を通して学ぶことが出来る、という点を彼女は魅力に感じているようだった。
薬剤師だけでなく、ナースステーションにいる看護師、そして医師ともコミュニケーションがある。医療従事者として、他職種と一緒に働く経験は勉強になるのだと。何より、患者さんのカルテ(基本情報・病歴・既往歴・アレルギー・検査・入院後経過などなど)を見るので、この症状にはこの薬を~という類の専門性が身につく。
バイトで働いていた薬局は、患者さんが持ってくる処方箋(薬の服用量・投与方法など)しか見ることが出来なかったので、この違いは大きい。もちろん、医師と薬についての意見交換を行う機会も多いため、勉強も必要だが、その分成長も出来るだろう。
面接の結果
面接の結果通知が、予定日を過ぎても届かなかった。
「落ちたんよ」と言う彼女。自信がないと言うよりも、また試験に落ちたら、、、という経験が影を落としているのもわかった。
倍率が高かったとは言え、常識や社会性がある人間に内定を出さないとは考えにくい。唯一ネックになるのは、年齢だろう。ストレートで合格している人よりも数年遅れているし、女性についての考え方が企業によって異なるのは明らかである。面接前には、高校時代の友人からお守りをもらったらしいが、お守りを無駄にする経験は辛い。
考えた挙げ句、彼女は思い切って電話で問い合わせた。すると、「明日一斉発送する」とのこと。
そして数日後、合格通知が無事に届いた。
良いことには違いない。しかし、一安心したのも束の間、「むしろ、受からないけんっていうプレッシャーがある」と言う彼女の言葉には覚悟がにじみ出ていた。
つづき
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